水島洋先生も緊急講演!ヘルスケア X ブロックチェーンミートアップ
2018年7月2日 ヘルスケア X ブロックチェーンミートアップが東京半蔵門LIFULLで行われた。
藤本真衣(KUMAIのMAI) によるオープニング挨拶の要点
「メディブロック アレン氏の経歴 コンピュータエンジニアから歯医者に転職し医療現場のアナログさに驚き、元エンジニアとしてできることはないかと考え始めたのがこの仕事を始めるきっかけであったとのことです。」
KUMAIのKUMA(筆者)から追記
コ・ウギュン(アレン)氏は韓国で一番の理工系大学からアメリカ大学院での学位取得、サムソン電子でのリードエンジニアを経験し、歯医者に転職したという異色の経歴。
共同経営者のイ・ウンソル氏も理工系コンピュータ関連エリートから医者になるという同様の経歴。
2人とも医療ブロックチェーンの仕事に最適の経歴。 この仕事が成功することは彼らの全ての経験が社会に最も貢献する最高にやりがいのある仕事となっていることが想像されます。
Contents
ブロックチェーン技術の医療分野への活用について 水島洋先生
水島洋先生 国立保健医療科学院(厚生労働省の管轄) センター長 ITヘルスケア学会 代表理事 医療ブロックチェーン研究会 会長
(医療ブロックチェーンの講演に最高の先生に講演を快諾いただいた。公務員としての立場もある先生が念のため休暇を取ってご参加していただきました。申告すべき COIはありあません。本公演は個人的見解とプレゼン資料に表示されています。)
医療ブロックチェーンに興味を持つきっかけ
希少疾患を研究する仕事をする際に (データ(症例数)が少ないのでデータベースが必要)
医療情報データベースの整備の必要性を痛感したこと。
患者による医療情報の制御ができれば患者登録データの個人利用ができることを考えた。
それにより以下のことも出来るようになる。
- 転院のアクセス拡大
- 遠隔医療のためのデータ転送
- レジストリー(ガン登録、疾患登録 創薬
- 研究への提供信頼するプロジェクトのみへの提供
厚生労働省以上等分野情報連携基盤検討会 資料をみると
国の資料の中に医療の電子情報化はずっと出てきているのに進んできてなかった。
(筆者注 セキュリティーの確保とそれと相反する病院をまたがる相互運用性を両立させることが容易でないことがそれを阻んだ最大の要因と思われる。その解決にブロックチェーンは今までにない解決方法を提供できたことになる。)
医療情報ブロックチェーン化の具体的な方法論
医療情報は基本オフチェーン 画像データ等は大きいので権限情報のみをブロックチェーンで共有管理。
(筆者注 ブロックチェーンは改竄を困難にしてある分、大量のデータの登録は必ずしも得意ではない。これを考慮していることから、実装のための具体的な話し合いが既にもたれていることが想像される。)
コストは現状それほど安くない。BCエンジニア不足し国内で200人程度とみられている。
ISOTC307ブロックチェーン標準化
(筆者注 ここで規定されているのは医療に限らないブロックチェーン全体。ISOで既に標準化されていることがポイント)
医療ブロックチェーンの歴史
2016 エストニアにおける電子政府で利用
(筆者注 エストニアの電子政府は国外在住者に住民票、登記上の会社設立の権利を与える等の先進的な取り組みで有名。その同一基板上に世界初の医療ブロックチェーンは実現され既に使用されている.
一国全体の成功している実用化例があることが、普及を促進した)
2017 1月 ダボス会議で議論(エストニアの事例を)
HIMSS2017(医療IT世界最大のイベント)
参加者4万人 ラスベカスかシカゴでしか開催できない一週間で全部見るのが無理なほどの規模
HIMSS 丸一日 医療とブロックチェーンの話 テストベッドも行われている。
Jon White(大統領に近い実力者)アメリカは医療にブロックチェーンを使うことを宣言した。
HIMSS2018 ラスベガス
AI bigdata IoT Blockchainの4分野が主要な関心と成っている。
アメリカでは医療ブロックチェーンが盛り上がっている。日本はなぜないのか不思議になるほど
(そのため私が自ら)ITヘルスケア学会の中に 医療ブロックチェーン研究会を作った。
医療ブロックチェーンキーワード
エストニア ピーターロス博士(エストニアの医療ブロックチェーンに詳しい方で水島先生のご尽力で日本でも公演が実現した。)
Hashed Health(ヘルスケア関連ブロックチェーン企業)
UK Medchain(ヘルスケア関連ブロックチェーン企業)
医療ブロックチェーンの課題に含まれるキーワード
管理者権限の主体 (国 自治体 民間?)
医療情報とアクセス権の適正化
暗号化(医療情報の)
法的課題(既存の法制がブロックチェーンでの運用を想定して作られてはいないので)
医療向け個人認証のあるべき状態
エストニア医療の参考動画リンク Estonia – the best place for health innovation (筆者追加)
Planetway社 保険請求のブロックチェーン活用会社 (エストニアと日本の会社)
MediBlocのサービス内容 アレン氏
メディブロックは医療ブロックチェーンの活用方法についてユニークなアプローチをとっている。
既に韓国の複数の病院と実証実験が進んでいる。その内容について今日だけある程度公開する。
PHR(Persofnal Health Record) の課題
個人の健康情報の記録を作り、高齢化社会の健康維持に役立ようという取り組みがPHRです。
アメリカには年間1000億円もの利益をあげているヘルスケアデータ会社もあります。
本来は個人の健康データは本人が管理するほうが自分の健康管理に役立てられるはずなのにそうはなっていませんでした。
また、医療情報にアクセスできる権利を持っている団体はあるのですが、データが改ざんされていない信頼性の高いものか確認する方法はありませんでした。
それらの問題を解決するためにブロックチェーンを活用することができます。
ただし、この分野には既に、グーグルもマイクロソフトも失敗しています。
その原因として以下のことがあり、それぞれに弊社は対策を打ち出しています。
1.データの標準化が十分になされてこなかった。
HL7 FHIR (医療情報のデータ規格)
この規格がスタンダードになると予想している。このデータに対応するだけでなく、他の規格からこの規格へのデータ移行ツールも開発を進めている。日本の医療データ規格からの移行ツールも提供する。
2.参加をうながすメリットや仕組みが作られてなかった。
ヘルスケアに有用な情報を提供した人にメディブロックのトークンを提供する、トークンによるインセンティブシステムを機能させるエコシステムを準備している。
3.信頼性
(安全性・真実性 信頼性が担保されてないとその価値はないに等しい)
医療情報はブロックチェーン外のストレージで管理され、ブロックチェーンでは医療情報のハッシュ値のみを管理している。
万一医療情報の改ざんが行われると、ハッシュ値が変わるため、改ざんをすぐに検知できる仕組みとなっているため、信頼性が担保されている。
MediBlocの目標
「健康データを集め活用する」
MediBloc=Internet of Health
筆者注
医療ブロックチェーンの当初の目的は、
1.医療機関の相互の医療データ活用の促進
2.個人の医療データを本人が健康促進に使うこと
メディブロックはその先を既に考えている。仮想通貨を使って健康情報を集めるための報酬が発生するエコシステムを作ることも計画しているのはこの大目標の一手段である。
メディブロック実際の運用例
非公開を条件に実証の内容もある程度までこのイベント内で公開された。
実際の運用例 概要(公開可能な範囲で)
1.複数病院間、会社間での医療情報の相互運用をメディブロックのシステムを経由して行っている。
(データの所有権は患者本人にあるので)まず患者さんに伝達し、他の病院に患者さんからデータが送られる。病院同士でデータの伝達が直接行われることはない。
その際にデータの改ざんなく、信頼性が担保され、問題なく動作することの実証をしている。
2.ガン患者、高齢者のQOL(Quolity Of Life )向上のための生活の記録をメディブロックのシステムを使って行い検証する。
筆者注 メディブロックに質問をすると実運用からでしか得られない多くの貴重なフィードバックをえていることがよくわかる。
メディブロック創業はビッグデータ利用法から
創業者2人は医療のビッグデータの分析が大きなビジネスになるだろうとよく話していた。
ところが、医療データに関しては、それ以前にアクセスする権利を持っていなかった。
唯一の方法は、患者が自分のデータを持つことになること、それを患者の同意のもと提供してくれる事だった。そこにビジネスチャンスがあると判断した。
パネルディスカッション
水島 メディブロックはパブリックブロックチェーンのみでの運用を考えているのですか?
アレン メディブロックはパブリックブロックチェーンを使用しています。ただし、認証システムにおいては完全に脱中央集権化されたシステムでの運用は難しく、ハイブリット型が必要と考えています。
個人認証システムにおいて今韓国でもっともよく使われている方法は(通信)キャリアを通じての仕組みなのでこの利用も検討しています。
もし認証システムを導入するとすれば、仮に弊社が主体となって、同じような仕組みでそのサービスを提供することも考えています。
医療従事者向けは政府から発行される認証書などの番号を入手し、行政が持っているものと比べ、真偽を判別する方法があると判断しています。
筆者注 パブリックブロックチェーンは管理者無しで動作を継続するシステムである。そのため個々のデータはその所有者に管理が任されている。
通常のパブリックなブロックチェーンだと、本人の以外の他者がデータを見ることはできない。
ところが医療では、本人が意識を失っているような場合にデータを見て緊急処置が必要な場合も想定される。
そのため、メディブロックではパブリックブロックチェーンを維持しながら、医療従事者にはアクセス権を与える、または、他者へのアクセスの設定権利を本人に与えるというハイブリッド認証方法をとることでこの問題を解決しようとしている。
アレン 国際的な相互運用性の実験をしたい。 それが日本とできれば嬉しい。医療情報の扱いが似ていて隣の国なので。
出席者からの質問も受け付けた。
質問:医療データのセキュリティー維持のために管理すべきハッシュ値が多くなりすぎて管理が大変にならないか
回答 アレン セキュリティー確保のためには、ある程度システムに負担がかかってもそのようにするしかないと考えている。HL7 FHIR フォーマットではそれがやりやすいと考えている。
質問 深刻な病気を持っている個人にその本人の個人データは全て開示すべきなのか?
回答 水島 医療情報は基本的に個人が管理することになってきている。深刻な病気でも本人に知らせるのが一般的になってきている。ただしエストニアの事例では、子供の医療情報を親が管理するような事例は出ている。
回答 アレン 実運用で老人でスマホが使えない場合に子供が親のデータを管理する事例が出てきている。
質問 ヘルスケアに役立つ情報を提供してもらった場合、その情報をどのように評価してトークンをインセンティブとして与えるか?
回答 アレン(懇親会で回答しててくれた)医療関係者がその情報を欲しがっているか、実際におカネを払っても入手しようとしているか、入手して満足しているか、等で評価できるようにしていきたい。
筆者注 アレンはこのブログの別記事で書いたの中国のPRIMASのコンテンツ信頼性評価システムと似たものをイメージしていることが話の中からうかがえた。
まとめ
-
医療データの信頼性の担保(改竄されてないと確認できること)
-
医療データの病院間をまたがる相互運用性(インターオペーラビリティ)
-
医療データを個人が保有して、開示先も個人が選べるようにすること
は待ち望まれながら、医療ブロックチェーンが登場まするまで実現できずにいた。
そのシステムの必要性を認識し、その実現を最も望み、そのための知識、経験、能力のある優秀な方々がいち早くこの分野に熱意をもって取り組まれていることが伝わってきた。
さらに、このシステムを推進するために、
有用な健康情報を収集するためのトークンエコノミーのシステム
の構築まで計画していることが、メディブロックのユニークな強みとなっている。
感想
医療ブロックチェーンの普及は医療ばかりかヘルスケア全体を大きく進歩させることが実感できた。
医療情報を、パーソナルトレーナーに提供して怪我や内臓疾患、血液成分に応じた、最適な筋トレ、有酸素運動の強度、量を提案してもらう。栄養士に提供して自分だけの効果的な栄養相談を受ける。
それによって得られた健康情報を提供してトークンで報酬をうけるという未来が予想される。
それと同時に、人間の心の問題についての対応を同時に行う必要もあるように思えてならなかった。
一人暮らしが増えてきている現代において、自分の死期を予想できる健康データを自分で保有しながら、その自分の死期を少しでも遅らせるために努力を継続できる人ばかりではないことは、たばこや酒が健康に悪いと思ってもやめられない人が多いことからも推測される。
個人の健康情報が、心身の状態を連動して改善させることができるほどのレベルで集まってほしいと願わずにはいられなかった。
余談
アレン氏が卒業したKAISTは韓国最難関の理工系エリート大学である。ソウル大学より入学は難しく、日本で置き換えれば、東大医学部と似たレベルと思われる。
私はKAISTが産学共同で開発したデータベースの日本でのビジネスプランを書いたことがある。その話をアレン氏にしたところ、彼は製品名も会社名も当てて見せて、自分の友人が何人もそのの会社で働いていたことやその後の問題等も、初対面の私に驚くほど率直に語ってくれた。とても正直な方なのだろうという印象を受けました。
水島先生は海外の研修に行こうとして急用でチケットを無駄にしてしまったお話もされてました。この日も休暇をとって講演を引き受けて下さりました。この分野の発展に無私の精神で貢献されている方という印象を受けました。
日本の年間医療費が約42兆円となっていますが、それは主に健康保険が適用された金額の総計に過ぎません。ヘルスケア全体、また医療ブロックチェーンにより開拓されるビジネスの市場規模は42兆円の数倍になるのではないでしょうか。
人間は冷静である限り、健康を他の何よりも価値の高いものだと認めざるを得ないはずです。お金より価値が高い健康。その健康に役立つ信頼性が高い情報が医療ブロックチェーンにより継続的に収集され、市場が形成されていくことがここまでもう具体的に見えてきています。 それがAIとも連動する未来も近くまで来ているのでしょう。
健康とは心身の十分に良い状態のことです。その先は、どのようであれば幸福と感じられるかを、自分を記録するブロックチェーンのデータとともに考えることになりそうです。